藤岡研究室

東京科学大学 理学院 物理学系
広い意味での原子核物理の実験的研究を行っています。陽子・中性子の2種類の構成要素から成り立つ原子核自体の研究よりも、クォーク多体系であるハドロンの性質やハドロン間の相互作用を調べる手段として原子核を活用しているのが、藤岡研究室の特徴です。
研究室選びをしている学生さんへ
2018年4月の研究室発足以来、『誰もやったことのないことをやろう』、そして『第一線(世界初・世界一)の研究をしよう』をキーワードに、新しいことに挑戦し続けています。理想的な研究の進め方の一例として、卒業研究で萌芽的・野心的な研究に取り組み (0.5年)、修士課程でそれを発展させ (2年)、博士課程で原著論文として発表できるクオリティまで研究成果を磨き上げる (3年)、という方針を考えています。もちろん修士課程修了後に就職を予定している学生も歓迎します。

研究内容

ハイパー核物理(ダブルΛハイパー核)

 陽子や中性子は up, down クォークが3個集まったバリオンですが、その次に軽い strange クォークを含むバリオンであるハイペロンが束縛した原子核をハイパー核と呼びます。ハイパー核を研究する目的の一つは、陽子・中間子間の相互作用である核力を拡張し、ハイペロン・核子間、もしくはハイペロン・ハイペロン間の相互作用まで含めて統一的に理解することです。
 特にΛ粒子が2個入ったダブルΛハイパー核 の探索をJ-PARC E75実験として提案しています。
  • 高エネルギー加速器研究機構・日本原子力研究開発機構・京都大学・東北大学などとの共同研究

ハドロン物理(中間子原子核)

 量子色力学における真空では、カイラル対称性が自発的に破れることで、π中間子などが南部-Goldstoneボゾンとして発現します。一方、原子核の内部のような有限の密度のもとではカイラル対称性は部分的(不完全)に回復するとされています。それに伴い、原子核内に置かれたハドロンの性質が、真空中のハドロンと比べて異なることが期待されます。
  中間子は、有限密度中で質量が大きく減少することが予想されていますが、それを検証するために 中間子と原子核の束縛状態(中間子原子核)を探索しています。
  • 理化学研究所などとの共同研究

中性子基礎物理(時間反転対称性の破れ)

 宇宙の初期には物質と反物質が同数あったはずですが、現代の宇宙は物質だけが残った物質優勢宇宙です。その理由は未解決問題ですが、少なくとも物質と反物質の間に標準模型では説明できない大きな対称性の破れがあるだろう、ということは推測されています。
 中性子と原子核の低エネルギーの反応では空間反転対称性の破れが、陽子・陽子間の散乱における破れと比べて最大100万倍近く増幅していることが実験的に知られています。同様に、時間反転対称性(CPT定理よりCP対称性の破れと等価)の破れも、中性子と原子核の反応によって作られる複合核共鳴を通じて探索できると考えられています。
  • 名古屋大学・大阪大学核物理研究センター・九州大学・日本原子力研究開発機構などとの共同研究

原子核物理(多中性子原子核の探索)

 中性子だけから成り立ち、陽子を持たない多中性子原子核の研究を行っています。京都大学複合原子力科学研究所の研究用原子炉KURを用いて探索実験を行っています。
  • 京都大学複合原子力科学研究所との共同研究

NEWS

  • 2024年9月16-19日に開催された日本物理学会 第79回年次大会で藤岡、萩原君、及川君が口頭発表を行いました。
  • 新B4 2人 (上田君、川崎君) が研究室に配属されました。
  • M2の西村君令和5年度物理学コース優秀修士論文賞を受賞しました。
  • 昨日出版した論文の内容をプレスリリースで発表しました。(東工大京大)(2023.11.24)
  • 藤岡がcorresponding author、研究室OBの友松君が second author の論文 “Search for particle-stable tetraneutrons in thermal fission of ” (Phys. Rev. C 108, 054004 (2023))が2023年11月22日に出版されました。
  • 研究室OGの谷さんが second author の論文 "Angular distribution of γ rays from a neutron-induced pwave resonance of ” (Phys. Rev. C 107, 054602 (2023)) が2023年5月9日に出版されました。
  • 新M1 2人 (小林君、萩原君) と 新B4 2人 (及川君、中原君) が研究室に配属されました。
2023年3月22-25日に開催された日本物理学会 春季大会で藤岡、田中君が口頭発表、友松君がポスター発表を行いました。
  • 藤岡宏之 「研究用原子炉KURにおけるウラン核分裂片としてのテトラニュートロンの探索」
  • 田中智也「崩壊π中間子分光に用いるTime Projection Chamberの読み出しシステムの構築」
  • 友松竜太郎「研究用原子炉における中性子照射により放射化した食塩のγ線分光」
M2の根岸君が、令和4年度物理学コース優秀修士論文賞を受賞しました。
  • 2023年2月9-11日に大阪大学&オンラインで開催された研究会「第8回クラスター階層領域研究会」で藤岡が “Preparation Status of Decay Pion Spectroscopy Experiment on Double-Lambda Hypernuclei” という題目で口頭発表を行いました。
  • 2022年12月16日に摺上亭大鳥で開催された研究会「奇妙な強い力、それによる結合系」で小堀君が「J-PARC E75実験における の分光」という題目で口頭発表を行いました。
  • 2022年11月17日に京都大学複合原子力科学研究所の研究用原子炉 (KUR) において藤岡と友松君が実験を行いました。
  • 2022年10月24-28日に東北大学で開催された SNP school 2022 の Young Researchers’ Sessionで田中君が “Development of TPC readout system for decay pion spectroscopy” という題目で口頭発表を行いました。
  • 2022年9月6-8日に岡山理科大学で開催された日本物理学会2022年秋季大会で根岸君が「S-2S磁気スペクトロメータを用いたダブルストレンジ核分光実験の準備状況」という題目で口頭発表を行いました。
  • 2022年5月9-10日に開催された中性子物理研究会 (於名古屋大学) において亀田君が「NOPTREX開発(He, Xe偏極)」という題目で口頭発表を行いました。

研究業績 (2021年以降)

2020年以前の研究業績は研究業績(論文)ならびに研究論文(発表) をご覧ください。
原著論文
  • H. Fujioka, R. Tomomatsu, and K. Takamiya, "Search for particle-stable tetraneutrons in thermal fission of ”, Phys. Rev. C 108, 054004 (2023).
  • T. Okudaira, Y. Tani, H. Fujioka et al., “Angular distribution of γ rays from a neutron-induced pwave resonance of ”, Phys. Rev. C 107 (2023) 054602.
  • S. Aikawa, H. Fujioka et al., “Pole position of measured in reactions”, Phys. Lett. B 837 (2023) 137637.
  • R. Sekiya, H. Fujioka et al., “Time resolution and high-counting rate performance of plastic scintillation counter with multiple MPPC readout”, Nucl. Instrum. Meth. Phys. Res. A 1034 (2022) 166745.
  • H. Fujioka et al., “Search for the Lightest Double- Hypernucleus, , at J-PARC”, Few Body Syst. 62 (2021) 47.
  • T. Okudaira, H. Fujioka, Y. Tani et al., “Energy-dependent angular distribution of individual rays in the reaction”, Phys. Rev. C 104 (2021) 014601.
  • H. Fujioka, “Feasibility of an experimental search for a resonance of a pion and a light nucleus”, Prog. Theor. Exp. Phys. 2021 (2021) 051D01.
  • M. Tsumura, H. Fujioka et al., “First experimental determination of the radiative-decay probability of the state in for estimating the triple alpha reaction rate in high temperature environments”, Phys. Lett. B 817 (2021) 136283.
  • A. Tani, H. Fujioka et al., “Structure of double pionic atoms”, Prog. Theor. Exp. Phys. 2021 (2021) 033D02.
  • H. Fujioka et al., “Comment on “Search for Bound Nuclei in the Reaction with Simultaneous Detection of Decay Products””, Phys. Rev. Lett. 126 (2021) 019201.
(注)筆頭著者と藤岡研究室構成員(下線)のみを記し、他の著者は省略した。
口頭発表・ポスター発表(研究室学生)
  • 萩原直紀 (M2) 『中性子透過実験による129Xe+nのs波共鳴でのスピン依存性の測定』(日本物理学会第79回年次大会, 2024/9/16-19)
  • 及川 峻矢 (M1)『原子炉での 反応を用いたテトラニュートロン探索実験の解析』 (日本物理学会第79回年次大会, 2024/9/16-19)
  • 田中智也 (M2)『崩壊π中間子分光に用いるTime Projection Chamberの読み出しシステムの構築』(日本物理学会2023年春季大会, 2023/3/22-25)
  • 友松竜太郎 (B4)『研究用原子炉における中性子照射により放射化した食塩のγ線分光』(日本物理学会2023年春季大会, 2023/3/22-25)(ポスター発表)
  • 小堀匠 (M1) 『J-PARC E75実験における の分光』 (研究会「奇妙な強い力、それによる結合系」, 2022/12/16)
  • 田中智也 (M2) “Development of TPC readout system for decay pion spectroscopy” (SNP school 2022, 2022/10/24-28)
  • 根岸亮輔 (M2)『S-2S磁気スペクトロメータを用いたダブルストレンジ核分光実験の準備状況』 (日本物理学会2022年秋季大会, 2022/9/6-8)
  • 亀田健斗 (M2)『NOPTREX開発(He, Xe偏極)』 (中性子物理研究会, 2022/5/9-10)
  • 滝鷹介 (M2) 『崩壊π中間子分光に用いるTime Projection Chamberの運動量分解能のシミュレーションによる評価』 (第77回日本物理学会年次大会, 2021/3/15-19)
  • 根岸亮輔 (M1) 『 標的を用いたダブルストレンジ核分光実験の準備状況』 (第77回日本物理学会年次大会, 2022/3/15-19)
  • 深田 憲史 (M2) 『束縛状態の探索に向けた反応断面積の測定』(ELPHシンポジウム2022, 2022/3/11)
  • 深田 憲史 (M2) 『束縛状態の探索に向けた反応断面積の測定』(ELPH研究会C031「多彩なビーム実験と多様な理論的手法で迫るハドロン間相互作用」, 2021/11/4-5)
  • 谷 結以花 (M2)『時間反転対称性の破れの探索に向けた 反応の放出角度依存性に関する解析』 (第76回日本物理学会年次大会, 2021/3/12-15)
  • 深田 憲史 (M1)『NKS2実験におけるKalman filterを用いた反応の解析』 (第76回日本物理学会年次大会, 2021/3/12-15)
口頭発表(藤岡)
  • 藤岡 宏之 『反陽子原子のX線精密分光実験に関する検討』(日本物理学会第79回年次大会, 2024/9/16-19)
  • 藤岡 宏之『中性子放射化分析を応用した研究用原子炉におけるテトラニュートロンの探索』(日本物理学会2024年春季大会, 2024/3/18-21)
  • 藤岡 宏之(招待講演)『HIHRにおける崩壊π中間子分光による軽いΛハイパー核の質量精密測定』( 「J-PARCでのハイパー核・ハドロン物理の将来を考える放談会」,2024/2/5-6)
  • 藤岡 宏之『原子炉における多中性子原子核の探索』(RCNP研究会「研究用原子炉を用いた原子核素粒子物理学」(FPUR-III), 2024/1/18-19)
  • 藤岡 宏之『中性子放射化分析的手法による、中性子だけで構成された原子核の探索』(「放射化分析及び中性子を用いた地球化学的研究-5-」, 2023/12/19)
  • 藤岡 宏之『研究用原子炉KURにおけるウラン核分裂片としてのテトラニュートロンの探索』(日本物理学会2023年春季大会, 2023/3/22-25)
  • 藤岡 宏之 “Preparation Status of Decay Pion Spectroscopy Experiment on Double-Lambda Hypernuclei” (研究会「第8回クラスター階層領域研究会」, 2023/2/9-11)
  • Hiroyuki Fujioka , “Production of light Ξ-hypernuclei, ”, (HYP2022 (14th International Conference on Hypernuclear and Strange Particle Physics), 2022/6/27-7/1)
  • 藤岡宏之 『研究炉を用いたテトラニュートロン研究の可能性』(RCNP研究会「研究用原子炉を用いた原子核素粒子物理学」(FPUR-I),2022/5/30-31)
  • 藤岡宏之 『 束縛状態の探索に向けた 反応断面積の測定」(第77回日本物理学会年次大会, 2021/3/15-19)
  • Hiroyuki Fujioka (invited talk), “Decay pion spectroscopy of light hypernuclei at HIHR” (Second International Workshop on the Extension Project for the J-PARC Hadron Experimental Facility, 2022/2/16-18)
  • Hiroyuki Fujioka (invited talk), “Studies of hypernuclei and double- hypernuclei at J-PARC” (4th Strangeness Nuclear Physics Workshop, 2021, 2021/12/18-19)
  • Hiroyuki Fujioka (invited talk), “Decay pion spectroscopy for p-shell hypernuclei at HIHR” (Strangeness in Neutron Stars -- Physics at J-PARC HIHR/K1.1 beam lines, 2021/6/19)
  • 藤岡 宏之『ダブルハイパー核の分光実験に用いるガス検出器の読み出しシステム構築と性能評価』 (第6回クラスター階層領域研究会, 2021/6/14,19)
  • 藤岡 宏之 (招待講演) 『高磁場超伝導磁石を用いた崩壊中間子分光によるハイパー核束縛エネルギーの絶対値測定』 (ハドロン拡張・HIHR/K1.1ワークショップ ~核物理による中性子星内部の解明へ~, 2021/5/23)
  • 藤岡 宏之 『ハイパー核分光実験における振動の影響』 (日本物理学会第76回年次大会, 2021/3/12-15)
  • Hiroyuki Fujioka, “Search for the lightest double- hypernucleus, , at J-PARC”, Yamada Conference LXXII: The 8th Asia-Pacific Conference on Few-Body Problems in Physics, 2021/3/1-5)

2024年度研究室メンバー

学年・職位氏名NameE-mail
准教授藤岡 宏之Hiroyuki FUJIOKAfujioka[at]phys.sci.isct.ac.jp
助教内田 誠Makoto UCHIDAuchida[at]phys.sci.isct.ac.jp
M2宇根 千晶Chiaki UNEune[at]quark.phys.sci.isct.ac.jp
M2萩原 直紀 Naoki HAGIWARAhagiwara[at]quark.phys.sci.isct.ac.jp
M1及川 峻矢Shunya Oikawaoikawa[at]quark.phys.sci.isct.ac.jp
M1小林 丈起Tomoki KOBAYASHIkobayashi[at]quark.phys.sci.isct.ac.jp
M1中原 秀馬Shuma NAKAHARAnakahara[at]qquark.phys.sci.isct.ac.jp
M1坂野 悠仁 Yujin BANNObanno[at]quark.phys.sci.isct.ac.jp
B4上田 明彦Akihiko UEDAueda.a[at]quark.phys.sci.isct.ac.jp
B4霞 千明Chiaki KASUMIchiaki.k[at]quark.phys.sci.isct.ac.jp
B4川崎 海斗Kaito KAWASAKIkawasaki[at]quark.phys.sci.isct.ac.jp
OB/OG梅津 澄也Sumiya UMEZU(2020.03 学士)
OB/OG吉津 文博Fumihiro YOSHIZU(2020.09 学士)
OB/OG加藤 和志Kazushi KATO(2021.03 学士)
OB/OG谷 結以花Yuika TANI(2019.03 学士, 2021.03 修士)
OB/OG滝 鷹介Yosuke TAKI(2022.03 修士)
OB/OG深田 憲史Kenji FUKADA(2020.03 学士, 2022.03 修士)
OB/OG樋口 奏斗Kanato HIGUCHI(2022.09 学士)
OB/OG亀田 健斗Kento KAMEDA(2021.03 学士, 2023.03 修士)
OB/OG田中 智也Tomoya TANAKA(2023.03 修士)
OB/OG根岸 亮輔Ryosuke NEGISHI(2021.03 学士, 2023.03 修士)
OB/OG佐藤 悠人Yuto SATO(2023.03 学士)
OB/OG友松 竜太郎Ryutaro TOMOMATSU(2023.03 学士)
OB/OG小堀 匠Takumi KOBORI(2024.03 修士)
OB/OG西村 岳太郎Gakutaro NISHIMURA(2024.03 修士)

連絡先

〒152-8551 東京都目黒区大岡山2-12-1 S5-5 東京工業大学南5号館501B号室
fujioka[at]phys.sci.isct.ac.jp